初めてのジャムジャムライナーで大阪からディズニーへ行った

公開日:2014/12/22

Pocket

ジャムジャムライナー
主要都市を結ぶ『ジャムジャムライナー』。街中を走る緑や紫の車体を見たことがある人も多いはず。格安で移動できるこのバスの快適性を確かめるべく、筆者自ら乗車したうえで、その実態を明らかにしたい-

0.はじめに

みなさんこんにちは、もしくはこんばんは。僕は大阪在住の36歳サラリーマン。
仕事がら毎週のように東京と大阪を行き来する生活を送っています。
新幹線や飛行機の利用回数は100回、、、いやもっとか?
もうとにかく数え切れないくらい乗ってきた。

同じ出張族の皆さんの中には、事前に出張経費が会社から支給され、移動手段は自由という方も多いと思う。
しかし、僕が勤める会社は交通手段を事前申請する必要があるので、浮かせた差額を懐に入れるという特権が利用できない。
裏を返せば申請しさえすれば何に乗っても良いわけで、畢竟、安さが最大の魅力ともいえる夜行バスは、これまで僕の選択肢には全く入ってこなかったわけだ。

とはいえ、飛行機や新幹線を3桁以上利用してくると、移動はただもう惰性という他なく、 マンネリ化した交通手段に一石を投じようとこのたび敢えて、新たな移動手段「高速夜行バス」に乗ってみることにした。

僕の想像する「夜行バス」のイメージは、こんな感じ。

・狭いシートで10時間も過ごさなければならない。
・他人に挟まれプライバシーもあったもんじゃない。
・運転手が粗野でいかつい
・運転が粗くて怖い

多分に勝手な妄想も含まれており、偏見と言われても反論しようがないが、ともかくこういった思いがあった。
良い点としては“旅気分が味わえる”とか“早朝から行動できる”あたりが挙げられるのかもしれない。

けれど仕事で行く僕には旅気分なんて必要ないし、早朝から活動したとして取引先が営業前じゃしょうがない。
しかも僕は神経質・潔癖症を地で行く純粋なA型で、ベッドでなければ眠ることができない自信がある。

固い椅子で一晩を過ごし、ましてや他人のいびきを聞きながら夜を明かすなんて、苦痛以外の何物でもないではないか。
これは予約する前から弱気にならざるを得ない。

だがしかし待て。このイメージは子供のころからの固定観念だ。
以前夕方のニュース番組で目にした『夜行バス特集』では、現代のバスの居住性の高さを取り上げていた。
また、どこぞの新聞では『変わりゆく交通手段』をテーマに、LCCと並び評され高速夜行バスが公共の“足”として 確かに認知されていることを謳っていた。

どれも僕の偏見を覆すのに十分な内容だった。
そもそも利用してもいないのに「ベッドでなければ眠れない」だなんて思い上がりも甚だしいのではないか?

「運転手が粗野でいかつい」? 昭和の白バスか! 今はサービス重視の時代。
運転手の教育もしっかりしているに違いない。

よし、ここはいっちょう実際に乗車して真偽のほどを確かめてみよう。
そんなわけで、このたび筆を手に取ったしだいです。
宣伝記事でも、広告収入が入るわけでもない。
30代半ばのサラリーマンが体験した夜行バスの≪リアル≫がここにある!

長堀バス注射用の掲示板

※日々こんなにもたくさんの夜行バスが走っているなんて、知らなかった。

1.予約の決め手はコンセント

今回乗車する夜行バスは『ジャムジャムライナー222便』。JAMJAMライナーと表記されている。
1席ずつが独立した横3列のシートで、車内にトイレがついているタイプだ。

トイレは近い方ではないので、必要さは感じなかったが、この3列『独立』ってのはいいな。隣のオッサン(これも偏見)の体温を感じずにすむ。

JAMJAMライナー予約の決め手になったのが『コンセント付』っていう設備だ。
何しろ僕は忙しいサラリーマン。携帯電話は必需品なのだ。
僕は持ってはいないが、ノートPCやタブレットを持ち歩く営業マンもいるだろう。
そんな現代を戦うビジネスマンになくてはならない電源を確保できるのは、何よりありがたいことだ。

高速バスのポータルサイトではコンセント付き車両も多く販売しているようだった。
いや、多くなんてもんじゃない。むしろコンセント付きであることが主流になっているような感じすらあった。
ネット社会と言われて久しい。時代の流れは高速バスにも波及しているようだ。

車内コンセント

※現代社会に於いて、電気の供給は死活問題

ちなみに値段は5,500円。今回は平日に乗るのだが、週末などになると1.5倍くらいになるみたいだ。
週末だとしても新幹線と比べればおよそ半額。これは安い。

2.長堀バス駐車場周辺の食事事情

2014年12月初旬、僕は心斎橋の「長堀バス駐車場」に、地下鉄で向かっていた。
最寄駅である地下鉄御堂筋線の心斎橋駅に到着。
『ジャムジャムライナー222便』は大阪梅田の「プラザモータープール」にも乗車地が設定されているが、ここは敢えて「長堀バス駐車場」を乗車地にチョイスした。

なぜなら、周囲に何もなさそうな「プラザモータープール」に比べ、「長堀バス駐車場」には 近くに『クリスタ長堀』という大きな地下ショッピング街があるからだ。
まずは『クリスタ長堀』で腹ごしらえをし、長旅に備えようというのが僕の計画。

だった、の、だが・・・。
着いてみて唖然とした。
『クリスタ長堀』の広大な地下ショッピングモールは、閑散としたシャッター街となっていたからだ。

しまった、今日は特別な休みの日だったのか?
手近な店のシャッターには≪営業時間10:00~21:30(LO21:00)≫の文字。
隣のハンバーーガー屋も、向かいのパン屋も同様だった。

なんてことだ、この『クリスタ長堀』全体の営業時間が22:00までだったのだ。
『ジャムジャムライナー222便』の心斎橋出発時間は22:45。
だから22時くらいに行ってご飯を食べようとした僕の計画が甘かったのだ。

普段空いている時間しか見たことがなかったので、予想もしていない事態。
これが深夜に出発する高速路線バスの洗礼なのか・・・。

クリスタ長堀

※閑散としたクリスタ長堀。台風に備えているわけではない。

出鼻を挫かれ仕方なく地上にあがれば、早くもやってきたこの冬一番の寒波とやらが、空腹の身に追い打ちをかける。
『クリスタ長堀』をあがれば乗車地「長堀バス駐車場」は徒歩2分程度の距離だ。

たしか駐車場の前に牛丼屋があったはず。そこで飢えと満たし、寒さを凌ごう。僕、牛丼も大好きだしな。
瞬時にプラス思考に転じ代替案に向け行動を起こす。

やがて≪四ツ橋≫交差点の向こうに、きらめくお馴染みの牛丼屋の看板。
今の僕には、砂漠の中に唯一存在するオアシスのような輝きだ。

赤信号ももどかしく、青に変わるやクラウチングスタートばりのダッシュ。
長旅を覚悟して、ここは絶対大盛りで食おうと鼻息も荒い。

ところが、そんな僕を嘲笑うかのように、何の前触れもなく牛丼屋の看板がその輝きを止めたのだ。

え、なぜ・・?
「すみません、うち営業時間22時までなんですよ」
さもすまなそうに告げる痩せぎすの店員の言葉を聞いた瞬間、視界がぐにゃりと歪むのを感じた。

馬鹿な。24時間でしょ普通・・・。
だが目の間にあるのは情け容赦のない現実だった。
入口の張り紙にも、店員の言葉を裏付ける内容が書かれていた。

これから長堀で乗車しようとする若者たちよ、どうか気を付けてほしい。
バス駐車場向かいの牛丼屋は22時に閉まる。
牛丼が欲しければ心斎橋の交差点であらかじめ食べておくことを強くお勧めする。

閉店ガラガラ

営業は22時

※恋に恋焦がれ恋に泣く結末 

3.長堀バス駐車場の様子

打ちひしがれた身体に鞭打って、牛丼屋隣のコンビニへ。
こんなことなら欲をかかず、最初からコンビニの気分でいるべきだった。
2階のテナントに入っている居酒屋の賑わいが恨めしい。
焼き鳥を食べ、酒を飲むには時間が足りなすぎるのだよ。

冷えた身体のため、肉まんやアメリカンドックなどホットスナックばかりを買い込んで、向かいの「長堀バス駐車場」へ。
暖房が入っているのか怪しいが、待合室で食べることにしよう。

入り口で、こちらもやはり露店のようにテーブルをだして受付をしている係員の女性に、名前を告げる。
あらかじめ予約をしておかなければ乗車できないことになっており、僕の名前も確かに記されていた。

「では、バスが到着するまであちらでお待ちください」
係員の女性が指さしたのは、数人の客がたむろしている小さな一角。

そう、ここでも新たな事実が、僕に更なる衝撃を与えてくれた。
「長堀バス駐車場」に待合室は、無い。
暖房どころか、吹きさらしの夜空の元でバスを待つのだ。

もう、考えることはやめよう。今はただジャムジャムライナーに乗ることだけに集中しよう。 乗ってしまえばこっちのものだ・・・。

バスが到着するまでの15分間、壁によりかかって冷め始めた肉まんをパクつく。
無心を目指した僕の脳裏にふとよぎったのは、ニーチェの“神は死んだ”というフレーズだけだったと、今でも記憶している。

長堀バスの自販機

※今年最初の「あったか~い」は長堀駐車場にて

この日、長堀バス駐車場から乗り込んだのは、女性2名x2組と女性1名x1組、そして僕を含む男1名x3組の計8名。
コロコロ鞄を持った女性2組はどちらもかなり若い。若いのに静かにバスの到着を待っている。

男性のうち一人は大きなヘッドフォンを付けた学生風。東京に帰省するのだろうか。
もう一人は年齢不詳の長身の男。帽子を目深にかぶり、歳人相までは分からない。

『ジャムジャムライナー222便』がその雄姿を現したのは、きっかり出発の10分前。
さあ、気を取り直して出発だ!

長堀橋駐車場入り口

長堀橋駐車場待合場

※心斎橋といいながら、最寄駅は四ツ橋線の四ツ橋駅である。

 3.ジャムジャムライナー222便の設備

まずは、バスから出てきた乗務員さんにあらためて名前を申告する。
乗務員さんが手にした名簿には、乗客がどの座席に座るかが記されていた。
それによると僕の席は“3A”とある。ということは乗る段階ではすでに席割りは決められているというわけだ。

早い者勝ちで席に着く方式ではないので少し安心した。
客同士の変な揉め事に合わずにすむ。
乗り込む横では、女性2組が手にしたコロコロ鞄をバス側面にあるトランクに積み込んでもらっているのが見えた。

ジャムジャム222便

※会いたくて会いたくて、文字通り震えるほど待ち臨んだよ。

 初めての夜行バス潜入にドキドキしながら乗車する。
落ち着いたLED照明、清掃の行き届いた車内。

最初の感想は「めっちゃ豪華やん」だった。
アメニティ(無料の小物)もスリッパ、アイマスクと各席に用意されている。
ブランケット(毛布)もJAMJAMライナー専用に作られた品の用だった。
フットレスト(足置き)やレッグレスト(ふくらはぎ置き)の設備も申し分ない。  充実のアメニティ

 

 ジャムジャム3列独立席

 ※充実のアメニティと独立席の全貌(コンセント付!)

プライベート空間を演出するカーテンの存在にも驚かされた。
中央を含めた各席の上部にブラインド型のカーテンが設置されており、下までおろせば他人の存在を意識することなく過ごすことができる。
まるでネットカフェの個室のような居住スペースだ。

思ったよりゆったりした座席

 

プライベート空間を確保

※カーテンのおかげで周囲も気にならない。なんだ、思ったより過ごしやすいぞ

しかも、僕のあてがわれた“3A”は運転席側の窓側にある席だった。
席の真後ろはトイレへ降りるための階段。
つまり後方客に気兼ねすることなく思い切りシートを倒せるってことだ。
座席の指定は受け付けてくれていない中、このシートは本当にラッキーと言える。

前方席の様子

前方席もカーテンで仕切られます

※3列独立シート。走行中は前方もカーテンで完全に仕切られます。

狭くて汚い、安さだけが売り。そんな当初の思惑を微塵も感じさせない立派な内装と、座り心地の良いシート。
3列独立タイプというバスがこんなに快適なシロモノだったとは。
これなら、案外カンタンに眠りにつけるかも♪

5.車内の様子

◆22時45分

興奮冷めやらぬまま、予定されていた8名の乗客を乗せジャムジャムライナー222便はいよいよ動き出す。
定刻出発だ。

見渡して気づいたことがある。
女性客は後方に、男性客は前方に意図的に分けられているようなのだ。
中間の席、4~6列目あたりがぽっかり空いている。ここは男女カップル用なのか???

いずれにしても一晩同じ屋根(?)の下で過ごすのだ。こういった女性への配慮も好ましく思えた。
「長堀バス駐車場」を出発して間もなく車内アナウンスが流れだす。
自動音声ではない、生の男性ボイスだ。

バス運転手は2名乗り込んでいたので、運転していない方の乗務員さんがしゃべっているのだろうか。その内容がとても丁寧で、物腰柔らか。
ご乗車ありがとうございますの言葉ではじまり、まずは途中の乗車地と目的地までの予定時間の案内。ここまでは普通。

それからが特筆すべき点だ。急ブレーキの断り、シートベルトの義務化、禁煙、禁酒の注意、トイレの使い方、フットレストは土足厳禁などなど、まるで執事か男性秘書かのような静かな口調。

夜行バスという特性と、おもてなしの精神を見事に体現していた。
これまた当初のイメージを覆された。
夜行バスの乗務員が粗野だなんて完全な偏見と言っていい。

ジャムジャムライナーが特別なのだろうか。
ここまで快適なら、他のバスにも乗って比較してみたい気分にさせられる。

バスは「長堀バス駐車場」から北上し、次の乗車地「プラザモータープール」へ。

車内後方の様子※後方席は男子禁制の女の園。後ろにいったら捕まるのかな?

◆23時00分

時間調整のためか、途中の路上で停車し10分ほど待機。
しかし車内は恐ろしく静かだ。
誰ひとり声を上げることはない。単独の男性客は言うに及ばず、女性2人組ですら言葉を交わす様子がない。
これが夜行バスの実態なのか。乗ったら後は眠りに徹するのが暗黙のルールなのか。

この車内で一番興奮しているのは他ならぬ僕だろう。
他の7名の皆さんは夜行バスの達人たちに違いない。
達人に倣い僕も息を潜めているが、無音空間にすっかり飲まれているのも事実だ。
早く目的地にたどり着いてほしい。

◆23時10分

2つ目の乗車地「梅田プラザモータープール」到着。
梅田なのでさぞかし客も多いだろうと思いきや、予想に反して乗り込んできたのは男性1名と女性1名、そして女性2名x1組のみ。
外からプラザの係員さんと乗務員さんが交わす「今日は少ないなあ」という会話が漏れ聞こえてくる。
たしかに今日は平日まっただ中。予約サイトでも金曜日は満席状態だった。
平日は安く、週末や連休は高いという価格設定は、ホテルなどと同じ手法らしい。

◆23時20分

「プラザモータープール」を発つと、はまたも乗務員さんによる丁寧すぎる放送。
さきほどと同じ内容に加え、このあと高速に乗って最後の乗車地である京都に向かうから、車内灯を間接照明に変えるというアナウンスが入った。
ほどなく照明が落とされ、バスは名神高速に入る。

周囲からはもう眠っている息遣いが聞こえ始める。
常識的にはもう寝る時間だしな。
新しい体験に僕の頭は冴えまくっているが、やることがないのでスマートフォンをコンセントにつなぐと、照明レベルを最弱に落として動画サイトを見始める。

車内は十分に暖かくなり、少し暑いくらいに温度が上昇。
かなり乾燥しており、風邪などひいていたら他のお客さんにうつしてしまうのでは、という疑問がわきあがる。

大阪の夜

※浪速の地よ、今夜もありがとう

◆24時15分

最後の目的地「京都駅八条口 観光バス駐車場」に到着。
着く直前に車内灯がつき、間もなく到着のアナウンスが流れる。

ここで乗車してきたのは50代らしき女性5名のグループと男性1名の計6名。
おばちゃんたちは「はぁ~あったかいわぁ」とか「あんたそこ?ウチここ」とか後方座席で小声をかわしている。
男性客は1列目の右側に腰を下ろした。
これで全員か。3分の2が女性なのも以外。半分以上が男性客だと思っていた。

いよいよ本日の全乗客が出そろい、ジャムジャムライナー222便は関東方面へ。
お決まりのジェントル乗務員によるアナウンスに加え、今度は自動音声も流れた。

この後は完全に照明を消します、車内はお静かに。トイレ休憩は2時間から3時間おきにとります。
席を立つ際は貴重品の管理をお忘れなく。といった内容だ。

放送が終わると、車内は完全な暗黒に包まれた。
え、こんなに真っ暗になるの?と不安になるくらいの漆黒と静寂。
うるさそうに思えたおばちゃん集団も、忍者の如く闇に溶け込みまるで気配がない。

まるで僕だけが眠りの波に取り残されたようだ。
焦れば焦るほど目は覚めるばかり。だから眠れないって言ったんだ。

ここまで暗いと最弱にしたスマホの明かりすら眩しく、人目を気にして窓とカーテンの間に潜り込んで隠れるように画面を見る。
窓からの外気がダイレクトに伝わってきて、身も凍る思いだ。

心細さを纏った中年男を乗せた222便は、そんなことなどお構いなく、まっくら闇の新名神をひた走る。

静寂が支配する車内

※愛しさと切なさと心細さで押しつぶされそう・・・。

◆3時15分

長島スパーランドくらいまではSNSなどで仲間と連絡を取り合っていたが、名古屋に入るころには音信も途絶える。
無理やりにも目を閉じ、眠ろうと努力するが、環境が変われば寝ることもままならず、悶々と時を過ごす。

それでもようやくまどろみかけたところで、ふいに車内の間接照明が点いた。
ここで1回目のトイレ休憩。せっかく寝れそうだったのに・・・・。

到着したのは「遠州森町PA」。新東名高速にあるパーキングエリアらしい。
遠州というからには、ここは静岡県か。
バスの入口に「出発3:30」というボードが掲げられた。
なるほど、むやみに車内アナウンスしてお客さんを起こさない配慮なのだろう。
随所にお客さんへの気配りが感られ、ジャムジャムライナーの好感度は今や鰻上り。

半分ほどのお客さんに紛れてともに車外へ出てみる。
しんとした静けさの中、底冷えする寒さに身をすくませる。

駐車場には多くの大型トラックが立ち並び、ジャムジャムライナーと同業と思しき
「VIPライナー」や「アミー号」といった高速夜行バスの姿もあった。

「遠州森町」はかなり新しいパーキングだと思われた。
売店などは閉まっていたが、トイレだけが煌々と光を放っていた。

このトイレの豪華なことといったらなかったね。やたら広い空間に洗面台がずらりと並ぶ。水は嬉しい温水だった。
広い空間にもかかわらず暖房も効いており、バスに戻ると、乗務員さんによる点呼の見回りがなされた。
全員そろっていることをしっかり確認し、バスは音もなく発進。

遠州森町PAトイレ

※清潔すぎるトイレ。いっそここで暮らしたい。

余談だが、このバス自体の性能も相当すごいと思う。
最近のハイブリッド車はエンジン音もなく滑るように動くが、このジャムジャムライナーも同じようなものだった。
発車時の駆動音などもわずか。熟睡していれば止まったことにも、発進したことにも気づかないに違いない。

熟睡できない繊細な自分を恨まずにはいられない。
けれども、1回目の休憩が終わったあとは、何の前触れもなく意識がなくなった。
4時台の記憶がまるでないのだ。
こんな僕でも眠れたんだと実感したのも束の間、それでも2回目の休憩でどうしても目が覚めてしまう。

隣に人もおらず、全開までシートを倒しても1時間程度のうたた寝なのだから、こればっかりは体質によるものと諦めるしかない。
どんな環境でもすぐに眠れる人なら、夜行バスは何の苦もないだろうな。

遠州森町に停車するジャムジャム

休憩時間で停車するジャムジャム

※漆黒の闇に映えるジャムジャムのグリーンボディ。かっこいい!

◆5時35分

2回目の休憩場所は「海老名SA」。神奈川県内にある唯一のサービスエリアであり、日本一の規模と名高いことでも有名だ。
冬の5時台はまだ日が昇る気配もないが、ここ海老名SAはすでに人と車でごったがえしていた。

時間が時間だけに降りるお客さんも3人程度。
「広いから迷わないようにね~」と声をかけてくれた運転手さんの心配も当然だ。
右を見ても左を見てもトラックとバスで埋め尽くされている。

比喩でもなんでもなく100台以上の大型車両が止まっているように見えた。
間断なく出入りを繰り返すこの駐車場だけでも、国内最大級を実感できた。

全国から集まってきた、他のバスから降りてくる乗客に混じってトイレへ。
この雰囲気、何かに似ていると思ったら、あれだ。
元旦に田舎で必ず行っている初詣の感覚だ。
夜明け前に見知らぬ人たちと身をすりあわせながら登って行く境内までの雰囲気そっくりだ。

ここでも非日常を垣間見る。
数時間で移動できる新幹線や飛行機と違うのは、この『旅』の感覚だ。
バス旅行を楽しむトラベラーの気持ちに、すこだけ共感できた気がした。
明星の夜空を見上げながら、普段飲まない缶コーヒーを買ってしまったのも、夜行バスマジックに違いない。

海老名サービスエリア駐車場

深夜の海老名は高速バスだらけ

※海老名SAは深夜バスの坩堝。迷子や乗り間違いにはくれぐれも注意!

◆6時25分

海老名を出発すると、最初の下車地「横浜桜木町」まではあっという間だった。
町田インターで高速を下り、30分もすれば「ご乗車お疲れさまでした」のアナウンスとともに車内に明かりがともる。
ぼんやり外の景色を見るともなく見ていたが、気づけば空は暁に染まっていた。
東の空が茜色から黄金色に変わっていく。

朝の訪れは車内にも伝播し、ここで降りる乗客の荷支度が始まった。
そしてバスは「横浜桜木町」停留所に定刻通り到着。
ランドマークである横浜の観覧車からもほど近い場所だった。

ここで京都のおばちゃん集団を含め、半分以上の11名が降りて行った。
桜木町のニーズってすごいんだなあ。

目的地は終点なのだが、僕はふと横浜の空気を吸おうと降りてみたくなった。
身ひとつで下車しようとする僕を見咎めた乗務員の一人が、やおら強い口調で呼び止める。「すぐに出るから席に戻ってください」

そう、定時運行を旨とする路線バスであるため、バスツアーのようにはいかないのだった。他の客も静かに目的地まで運んでくれることだけを望んでいる。

僕のような動きはトラブルの元と思っているに違いない。
そそくさと席に戻る。

◆6時50分

横浜を出たジャムジャムライナー222便は首都高速に乗り、次なるの降車地「新宿西口」を目指す。7時前だというのに高速はすでに結構な渋滞具合。

バスは朝日に照らされながら、ゆっくりと進んでいく。
こんな僕にも今更ながらに強烈な睡魔が襲ってきていた。

ジャムジャムの車内トイレ※生まれて初めてのバストイレ。2階建てでもないのに地下におりる不思議な構造。

◆7時25分

渋滞すら計算済みといわんばかりに、定刻の5分前に「新宿駅西口 コクーンタワー前」に到着。
車内では再びあの丁寧なアナウンス。
アクセサリ、充電器、帽子、メガネなどの忘れ物がないよう細々と伝えてくれる。
ここまでくると、乗務員さんのメインは“添乗”であって、“運転”はサブではないかと思いたくなるくらいだ。

新宿では男女1名ずつの2名が下車。
ともに旅した一期一会の仲間に、心の中でエールを送りたい。
これからの人生が互いに良いものになりますように!

7時30分に出たバスは10分後に再び停車して運転手が交代。
すっかり明るくなった快晴の湾岸道路を元気よく突き進んでいく。

車内に残っているのは女性2名x2組と僕だけ。
それもそのはず、最後の目的地とは千葉県某所にある日本で一番メジャーなあのテーマパークだからだ。
終始無言を貫く運転手たちも、男1人が夢の国へ向かって何しに行くんだと疑問に思っていることだろう。
後方席の若い女性客は、僕の事をどう思っていることか。
突然大声で、「僕は仕事で行くんです!」と思いっきり叫んでやりたい。

しかし、車内は10時間前と変わらずの静寂に包まれており、後ろを振り返るのも憚られる空気だ。
早く、着いてほしい。

◆8時20分

幕張で高速を下りると、やおら車内に朝の目覚めをうながすような、耳に優しい音楽が鳴り始めた。
終点です、お疲れ様でしたの言葉とともに、運転手という名の執事が、すでに何度も聞いた忘れ物うんぬんのアナウンスを僕たちのためだけに繰り返してくれた。
ここまでの親切は逆にもういらないのでは、と思ってしまう。

そして、遂に、ジャムジャムライナーは約10時間という長い移動の終着点にたどり着いた。
僕と女性客を降ろすと、222便の緑の巨体は悠然と「夢の国」を去っていった。

バスターミナルアネックス

※バスターミナルアネックス16番スポット

 こうして僕の ジャムジャムライナー初体験は終わりを告げる。
単なる移動手段として考えていた「高速夜行バス」は、飛行機や新幹線とはまったく異なる趣があった。

ひとことで言ってしまえば、それは“旅情”。
一夜のうちに多くの見知らぬ土地を渡り歩き、異国の空気を味わうローカルな旅路の思い出。

今回だけでたくさんの発見があった。
特に、運転中も互いに無駄話を一切しなかった乗務員さん。
時間通りに運行しなければならないとはいえ、ここまでピッタリ運行するとは。
まさにプロだな。
バス自体の性能もさることながら、運転も安心安全で全く問題はなかったと思う。
当初思い描いていた人物像とは真逆の勤務姿勢に、今はただ静かに賞賛を送りたい。

ディズニーとジャムジャム※ ひと晩の思い出をありがとう。お前の後ろ姿、この目に焼き付けた

 6.最後に

今回利用させてもらったジャムジャムライナー222便は、3列独立タイプの席でトイレもコンセントも常備の高級車両だった。
それでもやっぱり僕は熟睡することができず、人によってはむしろ疲れがたまるという方もいるかもしれない。
けれど、僕は僕なりに楽しむことができた。

何より、当初思い描いていたイメージ

・狭いシートで10時間も過ごさなければならない。
・他人に挟まれプライバシーもあったもんじゃない。
・運転手が粗野でいかつい
・運転が粗くて怖い

これらは、まったくもって偏見であった。
少なくともジャムジャムライナーさんでは、乗務員の接客対応にも力を入れられていることは間違いないだろう。

これを機会に第三の移動手段として、今後も夜行バスを利用してみたいし、ジャムジャムライナー以外のバスを体験してみたいと思う。
高速バスのポータルサイトを調べてみれば、予想以上にたくさんの会社が、たくさんの方面に、たくさんのバスを走らせていることが分かった。

次はどんなバスに乗ってみようか。
それを考え始めると、ベットの中でさえも眠れそうにない。

ジャムジャムライナーの後ろ姿

 ※このあと無言で走り去る、いぶし銀なジャムジャムライナー222便。

 

 

(編集者:注)
掲載されているバスの車内画像は、運行会社ジャムジャムエクスプレスさんから事前に許可をもらったうえで、特別に撮影させていただいたものです。
通常、夜行バス車内での写真撮影は厳禁であり、見つかり次第バス乗務員さんより厳しい注意を受けます。
プライバシー尊重のため、みなさんくれぐれもお気を付けください。

Pocket

もし今すぐバスを予約したい方は
すぐ検索できます。

格安系バスの取り扱いは日本トップレベルです。

皆様の感想、コメントなどお寄せください

*