高速バスを予約するにあたり、はじめて「南海バス」の名前を知った。
あるいは、「南海バスって、地元の路線バス以外もやっているの?」と驚いた。
そんな方、もしかするといらっしゃるかもしれません。
どんな会社なんだろう?
安全性とか、大丈夫?
座席ってどんなタイプ?
他の乗客ってどういう人が多いんだろう?
そんな疑問は、乗る前に解消しておきたいところですよね。
この記事では、調べて分かったことに加え、南海バスの高速バス部門を司る営業課主任へのインタビューも掲載します!
~目次~
■南海バスとは
南海バス 中の人インタビュー
■高速バスだからできる移動の提供を――東北・関東・信越・四国を結ぶ路線
■南海バスならではの特徴ある客層
■選ばれる理由、車内設備の充実
■南海バスの高速バス乗務員=経験・技術・知識がそろった人だけの”花形ポジション”
■乗車前後も快適に。「南海なんば高速バスターミナル」2017年リニューアルオープン
■南海バスとは
大阪の南部・堺に本社を置く南海バスは、関西の大手私鉄・南海電鉄を含む南海グループの一員。
南海沿線エリアを中心とした路線バスで、大阪南部ではおなじみの存在です。
関空へのリムジンバスや、他府県への高速バスも運行しています。
この記事では、主に高速バスについてご紹介します。
設備・料金・キャンセル料
会社名・設立年 | 南海バス株式会社 平成13年設立(南海電鉄㈱より分社) |
運行区間 | 大阪・京都 ⇔ 鶴岡・酒田(山形) 神戸・なんば・京都 ⇔ 橋本(神奈川)・昭島・立川(東京) 大阪・京都 ⇔ 秋葉原・成田空港・銚子 堺・大阪・京都 ⇔ 小田原・藤沢・鎌倉 和歌山・なんば ⇔ 新宿・東京 神戸・大阪・京都 ⇔ 長野・湯田中 堺・大阪・京都 ⇔ 柏崎・長岡・三条(新潟) 大阪 ⇔ 鳴門・徳島 |
年間利用者人数 | 都市間高速バス:64万人以上(28年度実績) ※共同運行会社分含む |
車両設備・アメニティ | 【夜行バス】 <車内設備> 3列独立シート・トイレ付車両 座席間カーテン レッグレスト フットレスト フリーWi-Fiサービス(※一部路線を除く) <アメニティ> ブランケット貸出 使い捨てスリッパ各席配備【昼行バス】 <車内設備> 4列シート・トイレ付車両 フリーWi-Fiサービス(※一部路線を除く) |
トランクでの荷物預かり、および車内への持ち込み不可荷物 | おひとり様お一つまで。 総重量 10キログラム以内 総容量 0.027立方メートル(概ね30cm×20cm×45cm) 縦・横・高さの3辺合計 100cm以内<持ち込み・預かり不可> 長大荷物(折りたたみ自転車、サーフボード等)、スキー、スノーボード、ゴルフバッグ、登山用大型リュックサック、貴重品、動物( ※身体障害者補助犬法で定める盲導犬・介助犬・聴導犬は除く)、危険物、損壊する恐れのあるもの、車両を破損させる恐れのあるもの、他のお客様に危害を及ぼしたり迷惑をかける恐れのあるものは車内への持込みおよびトランクへの収納不可 |
キャンセル料規定(乗車券の払い戻し) | 片道の場合…最大640円/名 |
車内設備・アメニティは、いま高速バスのサービスとして知られているもの、そのほぼすべてが揃っているといえるでしょう。
車庫にて車内を見学したのですが、個人的に「いいな!」と思ったのは、
一席ずつについたカーテン。真昼でも閉め切ればこの遮光性!
ふっかふかのブランケット!
(画面下の白い四角はコンセント)
とても清潔なトイレです。(ほのかにいい香りが……)
その特色についてはのちほどのインタビューにて詳しくご紹介します。
続いて特徴をレーダーチャートで表してみました。
地域密着度が高いのは、南海グループならでは。
安全強化に満点を5段階中5をつけられるのは、厳格な基準を持ち、10期(5年)連続無事故表彰を受けている点が背景です。
高速バスは、移動手段として格安なことから、20歳前後の利用者が目立ちます。
しかし、南海バスは少し独特。
料金で勝負するのでなく、設備を充実させる、交通手段が少ない遠方の地方と関西を結ぶ、といった傾向にあります。このため、「安ければなんでも!」という若者よりは、内容重視の人が多いとのこと。
これらの特徴について、南海バスの高速バス担当者の方へインタビュー。
詳しく各取り組みの背景やこだわりについて語っていただきました。
南海バス 中の人インタビュー
まず、ご自身の自己紹介をお願いいたします!
出身は和歌山でして、平成7年にバスの乗務員として南海グループへ中途入社いたしました。
平成7年というと、関西国際空港(関空)の開港翌年ですね。
南海グループといえば、大阪南部から和歌山にかけての鉄道・バスといった交通を担う存在。関空へのアクセスといえば、まず南海というイメージが大阪の人にはあると思います。
ええ。入社当初は、開設まもない空港線など、リムジンバスに乗務するところからのスタートでした。様々な路線でハンドルを握りましたね。その後、運行管理も経験しました。
そういった現場での経験を活かし、のちに関西空港を管轄する営業所で、ダイヤ担当として路線バスやリムジンバスの運行に携わりました。
現在は営業課主任を務めております。
業務としては、高速バスの運行にかかわる社内外の調整、これは配車など多岐にわたるのですが、お客さまから見て分かりやすいところでいうと、荒天時の運行可否の判断なども業務の一部ですね。
なるほど。現場も裏側も知り尽くしていらっしゃいますね。これから色々な話を伺わせてください!
高速バスだからできる移動の提供を――東北・関東・信越・四国を結ぶ路線
まずは、南海バス株式会社の基本的なプロフィールについてお願いします。
南海バスは平成13年に南海電鉄㈱から分社独立してできた会社です。南大阪での路線バス、関西空港へのリムジンバス、都市間高速バスが主な事業ですね。
都市間高速バスに関しては、東北・関東・信越・四国といった各地と関西を結んでいます。
~2017年7月現在の運行区間~
<東北>
大阪・京都 ⇔ 鶴岡・酒田(山形)
<関東>
神戸・なんば・京都 ⇔ 橋本(神奈川)・昭島・立川(東京)
大阪・京都 ⇔ 秋葉原・成田空港・銚子
堺・大阪・京都 ⇔ 小田原・藤沢・鎌倉
和歌山・なんば ⇔ 新宿・東京
<信越>
神戸・大阪・京都 ⇔ 長野・湯田中
堺・大阪・京都 ⇔ 柏崎・長岡・三条(新潟)
<四国>
大阪 ⇔ 鳴門・徳島
▲南海バスの車庫。共同運行する全国各地のバスが集まっていた。黄色のバスは、庄内交通の「夕陽号」=南海バスの山形路線
地方都市をつなぐ路線がとても多いですね。
仰る通り、新幹線一本で行ける路線は東京線のみですね。そういったところに、高速バスの強みが発揮されますから。とくに顕著なのは徳島線ですね。
直線距離では近しいものの、関西人にとっては近くて遠いイメージです。
徳島の方にとっては、ビジネス・進学・買い物・コンサートといったイベントなど、何かと大阪は出かける機会が多いところです。運行本数が多く、手ごろな高速バスは、昔から定着している交通手段といえます。
そうそう、昔はフェリーにバスを乗せて海を渡っていたんですよ。今は明石海峡大橋ができて、より安定した運行が実現しましたね。現在は大阪発23便・徳島発22便を運行する関西でも有数の路線に成長しています。
高速バスの、電鉄にない身軽さが発揮されていますね。
そういった点で、近年大きく伸びたのは、長岡線(堺・大阪・京都 ⇔ 柏崎・長岡・三条<新潟>)です。
JR寝台特急の運行が終了したことにより、関西エリアとの直通アクセスが途絶えてしまった後は、帰省シーズンともなると、増便をだしても足りないほどですね。
必要とする人が明確にいらっしゃる、ということですね。
ええ。
同じような背景をもつのが、鶴岡・酒田線(大阪・京都 ⇔ 鶴岡・酒田<山形>)ですね。航空便や寝台列車が廃止され、庄内エリア(鶴岡・酒田)から関西へのアクセスが難しくなりました。
そこで今年4月、山形の庄内交通と共同運行でスタートしたんです。現在、庄内エリアと関西エリアを結ぶ直通アクセスは、この鶴岡・酒田線のみとなっています。
上りと下りでいうと、どちらのほうが需要は高いでしょうか。
現状では、庄内発関西行がやや多いですね。庄内エリアにお住まいの皆さんへの浸透のほうが早いように感じています。
関西の方へいかに知っていただくかは、今後重視したい取り組みですね。
定着すれば、山形と関西圏、両エリアの活性化が見込まれますね。
庄内の出羽三山などは、日本遺産にも認定された美しい景観ある観光スポットです。そういった両エリアの良さをPRしていきたいと思っています。
ありがとうございます。では、都市間高速バス以外の路線に関してお伺いします。
関西空港リムジンバスに関しては、①泉北ニュータウン・金剛・河内長野線 ②徳島線 ③高松線 ④姫路線⑤岡山線 ⑥なんば線(深夜)の6路線があります。
深夜のなんば線というのが気になります。
近年はLCC(格安航空会社)乗客の利用が増えています。LCCは、深夜早朝に発着する便が多いですから。終電のない深夜に関空へ到着された外国人旅客の方々に多くご利用いただいています。
やはり南海沿線の方の認知度は高いのではと思います。
そうですね。ただ、南海の看板に甘えていてはいけないと思っています。遠方では、共同運行会社や協力会社にも販売・PR面でご協力いただき、路線ターゲットとなる居住地エリアにお住まいの方のニーズや動向を常に把握できるよう努めています。
南海バスならではの特徴ある客層
高速バスの利用者も、南海沿線の方が多いのでしょうか。
ネット予約普及により、そうとも限らなくなってきましたね。むしろ特徴としては、年代にあると思います。
高速バスユーザーの年代といえば、学生の方や若手社会人が多いイメージです。
おそらく他社さんに比べると、そういった若い方だけでなく、ご年配の方や、ビジネスシーンで当社の路線をご利用になる30代以降の方が多いのではないでしょうか。
それはどういった背景でしょう。
一つは、展開している路線的に、乗車理由が「安いから」という若者に多いものより、「料金関係なく、高速バスでの移動が有力手段」という全年齢層共通の背景があります。
そしてもう一つ。安全面と設備に力を入れていることが理由ではないかと考えています。
料金面で比べると、南海バスより安い他社さんの路線もあります。ただ、私たちは料金より、内容の充実を優先しているので。料金よりも車内設備の充実度をとるというタイプの方が多いです。
節約最優先でなく、快適性を重視したいとなると、学生さんの比率は確かに下がりそうです。
加えて近年では、訪日外国人のご利用も増加してきていますよ。成田・銚子線で”成田空港に着いてから関西観光”というパターンであったり、鎌倉線で”関西から鎌倉へ寺社仏閣観光”というパターンであったり。
選ばれる理由、車内設備の充実
さきほどお話に出てきた、安全面と設備のことについてお聞かせください。まず設備面から。
夜行バス路線については、全車両でトイレ付3列独立シートにて運行しています。 各席にコンセント・プライベートカーテン・レッグレスト・フットレストを装備しました。
また、ブランケット・使い捨てスリッパもご用意しています。
加えて、現在は一部の車両での提供にとどまっているフリーWi-Fiサービスも、2017年8月に全車両に導入します。(※一部路線除く)
高速バスにあると嬉しい設備・サービスとして思いつくものが、全部整っているなという印象です。
その分値段は高くなりますが、快適さに重点をおいて運行しています。
たとえば座席を4列にして、その分料金をお安くする方法もあるとは思います。ただ、当社は値段ではあまり勝負していないんです。色んなものを削って格安にするというよりは、必要なものを取り揃えて快適な旅を提供したいと考えています。長時間ご利用いただく路線が多いですしね。
南海バスの高速バス乗務員=
経験・技術・知識がそろった人だけの”花形ポジション”
では、次に安全面の取り組みについてもお教えいただけますか。
それならまず、高速バスを運転するドライバーに関して紹介させてください。
私たちの高速バス路線でハンドルを握れるのは、豊富な運転経験を持った社員のみです。府内を走る路線バスやリムジンバスなどで、実績を積むことが大前提。実際に現在活躍しているのも、乗務経験が8年以上のドライバーばかりです。
加えて、経験年数だけでなく、勤務態度やお客さまからの評価などもふまえて選抜します。
また、担当となってからも、まずは高速乗務研修できちんと高速バスの運行における規則や乗車券などの知識、イレギュラーな事態における対応などを理解してから業務につくよう教育も徹底しています。さらに、体力面も大切な仕事ですので、55才以上となれば適正診断等により、一年ごとに乗務可否判断しております。
限られた方しか、高速バスを運転できないのですね!
そうです。 当社においては、運転手たちが目指す、花形的なポジションですね。そうそう誰でもがなれる訳ではなく、運転手の中でも腕利きが選ばれて担当する役割ですよ。
本当は、乗務員を増やせば、多客期に増便を出すこともできます。会社としてはそうしたいところです。けれど、誰でもいいわけではない。ジレンマはありますが、基準は譲れないですね。
なぜ、そこまで厳しいルールを敷いているのでしょうか。
街の路線バスでしたら近くに営業所があるので、なにかあってもすぐサポートできますよね。でも、高速バスはそうもいきません。
たとえばパンク一つとっても、どれだけ冷静に対処できるかが問われるでしょう。何もないことが大前提ですが、万全を期すために、何かあった時も適切な対処ができると判断された運転手だけが、当社の高速バスを運転できる体制にしています。
安全面も設備面でも、念には念を入れておられるのですね。
そうですね。当社にとって、安全はなによりも優先すべき永遠の課題でもあります。
長野・湯田中線では、平成26年に運行体制をワンマンからツーマンに変更し、安全性向上をはかるとともに、関西側・長野側の経由地も追加しました。
踏み込んだ話で恐縮ですが、かかる人件費は倍になるかと思うのですが。
かけるべきところにお金をかけて、お客様に安心していただきたいと思っています。車両についても、ひと月ごとに自主点検を行い、車線逸脱・車両ふらつき警報を全車に搭載しています。新車導入時は衝突被害軽減ブレーキを導入しました。
結果、運賃としては、格安とPRすることはできません。しかしそれよりも、安全な旅をしっかりお守りできるよう、環境を整えることに力を注いでいます。
その結果、平成27年には、南大阪で一般路線バスも運行する中「10期連続(5年連続)無事故表彰」を受けられていますね。
300両以上の車両を保有する大手バス事業者では、1期(半年)の無事故(重大事故0)も難しいといわれる中での記録です。今後もさらなる無事故記録を達成できるよう、日々の安全への取り組みを強化してまいります。
乗車前後も快適に。「南海なんば高速バスターミナル」2017年リニューアルオープン
これまでの積み重ねが、高い評価に繋がっているのですね。
ところで、直近のトピックスはなにかおありですか。
それなら、今年(2017年)4月にリニューアルオープンした、「南海なんば高速バスターミナル」のことですね。バスをお待ちいただく間、心地よく過ごしていただける空間をご提供できるよう、装いを新たにしました。
リニューアルオープンのきっかけは何だったのですか。
周辺の再開発や建物の建て替えなどのタイミングですが、それならもっと利便性の高い施設にしたいという想いがありました。複数の高速バス路線がありますが、乗車地は難波に集約されつつあり、重要性が増していますから。
リニューアルに際しては、他のバスターミナルを視察して回りながら、よりよい施設に必要なものは何かを考えては社内で話し合うことを繰り返しました。お客様から「こういうサービスが欲しい」という意見を頂戴することもあったので、前向きに検討しつつ計画を進めて、やっと形になったというところです。
具体的に、どのような設備が新しくなったのですか。
きれいになったのはもちろんですが、女性トイレにフィッティングルームをプラスしたり、ほかにもパウダールーム、待合スペース、発車案内の電光掲示、喫煙ルームなどを整えました。
喫煙ルームがあるバスターミナル、意外と少ないですよね。喜ぶお客さまは少なくないと思います。
「こういうサービスがあったらな」という声に、できるだけ応えていきたいと思います。お客さまからいただいた声をひろうのはもちろん、乗務員による現場の意見、共同運行する各地のバス会社からの提案、ヒントはいろいろですね。
そういった声から生まれたサービスの一つに、なんばバスターミナル近隣の温浴施設と提携して、バスの乗降前後に気軽にお風呂に立ち寄れるサービス券を配布しました。これはタオルセットが無料となるもので、手ぶらで入浴にいけると好評です。酒田線でも、「東京第一ホテル鶴岡 朝食&温泉ご利用優待券」、「さかた海鮮市場のお得なクーポン券」をお配りしています。
なるほど。これから取り組みたい、取り組まなければというトピックスはありますか。
訪日外国人の方、学生の方といった、近年増えてきたお客さまの声にも、しっかり応えていかねばなりません。
この夏にWiFiを全車配備するのもその一環ですが、外国語表記の充実など、まだまだやれることはあると思います。
今後もさらに充実されていきそうですね。では、最後に一言お願いします。
乗務員は、みんな厳しい基準をクリアした、頼れるドライバー揃いです。ベテランが多いだけに、ちょっと貫禄があって、怖いと思われてしまう者もいるかもしれませんが……(笑)
安全運行はもちろん、お客様に喜んでいただけるサービスもどんどん形にしていきたいと思います。何かあれば、ご遠慮なくお声を寄せていただければ幸いです。そして、どうぞ安心して南海バスにご乗車くださいませ。
――ありがとうございました!
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